手をつないでも、戻れない……
病院の入口に、入る前に大きく叫ぶ声が聞こえた。

「伊藤さんなんて嫌いだ! 死んじゃえ! 」

キンキンと高い叫び声が響きわたって、明らかに回りの雰囲気を悪くしている。


「横井さん、外へ行こう!」

 伊藤さんの、少し苛立った声がする。



 私が、病院の自動ドアの前に立つと、受付の女性の嫌そうな顔が映った。

 周りを見ると、昼を回っているせいか、椅子に座る患者も数人だが、中には頭を押さえている人もいる。


「申し訳ありません……」

 深く頭を下げた。


「横井さん、どうしたの? 私に教えてくれる?」

 私の声に、横井さんは一瞬止まった。


「水嶋さんきいてよ―。伊藤さんが―」

 と大声でき出す。


「ここは、病院です。皆さんにご迷惑をかけてしまいます。外でお話し聞きます」


「やだやだ。先生に受診してもらう!」


「外へ行こう!」

 伊藤さんは、少しキツイ声で横井さんの手を取った。


「やだ!」

 横井さんは、また、激しくパニックを起こす。


「伊藤さん、私がここに来てしまって、施設が人手不足です。申し訳ありませんが、ヘルプをお願いします」

 私は、伊藤さんへ、厳しい目を向けた。


「ああ、行きまーす」

 伊藤さんは、嬉しそうに背を向けた。

 その姿に、思わず深いため息が漏れる。



「横井さん、私がちゃんとお話し聞くから、その後、先生に受診してもらいましょう」


 受付の女性をみると、明らかに嫌な表情を見せる。

 精神科ならまだなんとか対応してもえらえるが、一般科じゃ無理もない。

 まわりの患者さんも、嫌そうな冷ややかな目を向ける。


 仕方ない、今日は諦めて帰るか……

 消して、横井さんにとって良い経験にはならないが仕方ない……



 とにかく、落ち着かせて外へ出ようとした時だった。
< 35 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop