手をつないでも、戻れない……
「そうなんだ。良く分かったわ。ちゃんとお話ししてくれてありがとう」

 私は、ニコリとして、横井さんを見た。

 パニックは落ち着いたようだ。

 不要な刺激を与えない限り大丈夫であろう……



「横井さんが、悲しかったのは良く分かりました。でも、病院で大きな声を出したら、迷惑だよね」

 横井さんの目をじっと見た。


「はい。ごめんなさい……」


「それじゃあ、診察に行こうか?」


「はい」


 私は、横井さんを連れ受付へと戻った。


「すみません。待っていますので、診察お願いします」


「ええ。もう、時間過ぎ……」

 受付の女性が言い掛けた時……


「横井さん、中でお待ちください」

 さっきの看護師の声が響いた。


「はい!」

 横井さんは、何事も無かったように中へと入って言った。


「すみません」

 私が頭を下げると同時に……


「すみませんでした」

 横井さんも頭を下げた。


「ふふっ すぐ、呼ばれるからね」

 看護師は、穏やかな笑顔を私へも向けた。


「しっかり信頼関係ができているのね。あなたが来たとたん、横井さんが安心したのが分かったわ」

 看護師は私のネームをチラリと見た。


「水嶋です。ご迷惑おかけしました」

「いいえ、こちらこそ、病院なのに気が利かなくてすみません。受付の担当には、改めて研修をさせます」


「理解して頂くのは難しい障がいですから……」


「本当にね……」

 看護師は、小さなため息をついた。


 この仕事をしていれば、こんな事はよくある。

 だが、今日のように、まわりに理解ある人が一人でもいてくれる事は、本当に心強い。


 看護師の名前と思った時には、もう、居なくなっていた。
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