手をつないでも、戻れない……
 スープを温め、パスタとサラダを盛り付ける。

 簡単なつまみも作った。

 ふと、家庭料理なんて彼にとっては、それほど珍しいものでもないだろと思うと、料理していた時のテンションが下がった。



「うわ―。旨そう」

 後ろからの歓声に思わず目を見開いた。


「そう?」


「すごく、ワインに合いそうじゃん……」

 本当に嬉しそうな彼の顔に、ほっと嬉しくなった。


 好きなスポーツ観戦や旅行の話、面白かった出来事など、十五年の月日を感じさせないくらい、彼を近くに感じていた。

 他愛もない会話で笑い合う事でさえ、愛しくなる。


 一人暮らしの狭いキッチンで、後片付けをしてると、後ろから彼の手が腰に巻き付いてきた。


「ねえ、何時まで居られるの?」

 もう少しで、終電になる。


「始発で帰るよ……」


「大丈夫なの?」

 私は、洗い物の手を休めずに言った。


「夜勤なんだ…… 娘も合宿……」


「そう……」

 もう少し一緒にいられる嬉しさと同時に、彼の家族という現実を見た気がした。



 彼の手は、私を求める事なく、優しく抱きしめたままだった。


 私は、洗い物の手を止め、そのまま、彼の腕に抱かれていた
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