手をつないでも、戻れない……
 カーテンの隙間が薄っすら明るくなると、彼がベッドから起き出した。

 やはり、今夜も一睡も出来なかった。

 いつか、彼の胸で安心して眠れる日が来るのだろうか?


「そろそろ行くよ……」

 彼は、私の頬を優しくなでキスをした。



「うん…… 気を付けて……」

 私は、笑顔を送る。


「また、連絡する……」


 部屋を出て行く彼の背中を見ながら、淋しさが込み上げてくる。

 でも、私のしている事は、悪い事だ……


 だけど、他の人だったら、既婚者との一線は絶対に超えなかった。



 彼だったから……


 彼だったから止められなかった…… 


 それが、何の言い訳にもならないとは分かっていても、頭の中で繰り返さずにはいられなかった。
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