手をつないでも、戻れない……
 彼は、相変わらずメールを送ってくる。

日々メールの回数が増えている気がする。

そんな事に、自分への想いが深くなっているのだと、少し浮かれていたのかもしれない。


『今週、木曜日どう』

 やっと、待っていた内容のメールが送られてきた。


『いいよ。待ってる……』


 メールを見て、にやけながら夕食のメニューを考える。



 だが、もうすぐ来るだろうと、ワクワクして待っている私のスマホが鳴った。



『ごめん……。今夜は無理そうだ。必ず埋め合わせするから……』

 スマホの画面を見た途端、がくんと肩の力が抜け椅子に座り込んだ。



 そうか…… 



 こういう事もあるんだ…… 


 自分の甘さを改めて感じた。


 期待せず待つ力も必要なのかもしれない……


 立ち上がって、冷蔵庫から缶ビールを出すと一気に飲み干した。

 喉を流れて行く、冷たい感覚で、泣かずに保てている気がした。


 ただ、埋め合わせという事葉にモヤモヤとする。


 何をしいてくれったって、埋まらない事があるのに…… 


 そんな風に考えてしまう自分を、なんだか、惨めに感じた……


 本当は、埋め合わせなんて言って欲しくなかった……

 ただ、側にいて欲しいだけだ……

 それが、どれほどの贅沢なのか痛いほど分かっていた。
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