手をつないでも、戻れない……
 幼い頃から、近所に住む彼は、私の憧れの人だった。

 時々、学校への行き帰りに一緒になると、嬉しくて後ろを付いて歩いたものだ……


 中学、高校と進学するにつれて、彼に会う事は少なくなってしまったのだが、時々、見かける姿は、見とれてしまうくらいカッコよくなっていった。


 そして、短大を卒業して地元に戻って来た時、居酒屋で偶然に会った事をきっかけに、彼との距離が近くなっていった。


 憧れの彼と一緒にいられる事に舞い上がっていて、ただただ、毎日が楽しくて幸せで一杯だった。

 始めての夜の事は、今でも彼の優しさと肌の温もりを今でも忘れる事が出来ない。

 幸せだった…… 

 彼も同じだと思っていた。

 クールだけど、優しくて、大好きだった……


 ほんのささいな事だったと思う…… 

 今では、何が原因だったのかもわからない喧嘩をした。

 本気で別れるつもりなんてなかったし、すぐに仲直り出来ると思っていた。



 数日して、どうにも切なくなってしまった私は、夜遅くに彼の家へと向かった。

 どうやって彼を呼び出そうか? 

 と携帯を握りしめて待っていた私の目の前に一台の車が止まった。


 運転席には髪の長い大人の女性の姿があり、助手席に座る彼が目に入ったとたん、私は家の影に隠れた。


 そして、信じられない光景を目にする事になってしまったのだ。


 車の中で抱き合う二人の姿を……
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