手をつないでも、戻れない……
 雅哉に指定されたのは、私の住むアパートより二駅ほど先の駅前だった。

 行かない分けには行かないので、仕方なく電車に揺られる。


 すでに雅哉は待っていて、私の姿を見ると嬉しそうに手を上げた。


「お待たせしました」

 私は、頭を下げる。


「僕も今来たところ。さあ、行こうか!」


 雅哉は嬉しそうに言うと、私の手を掴み歩き出した。



「どこへ?」



「まあ、いいから……」


 狭い通りを抜け、たどり着いたのは、のれんに焼き鳥と書いた、小さな入口の店だった。

 爽やかな、雅哉からは想像しにくい店に、一瞬戸惑ってしまった。


「さあ、入って」

 雅哉は入り口のドアを開けると、私の背中を押した。


 一歩店の中へ足を踏み入れると、ふわーと焼き鳥の香ばしい匂と煙が立ち込める。


「いらっしゃい。ああ、雅哉か」

 感じのいい、鉢巻すがたのおじさんがチラリと私を見る。


「奥の席空いてるよ!」


「ああ、ありがとう」


 雅哉は、慣れてた足取りで奥へと進んで行く。


 奥の席と言っても、十席ほどのカウンターに、テーブル席は三つだけだ……



 雅哉に促され、テーブル席へと座る。


「いらっしゃい。久しぶりだね。こんな美人の彼女がいたなんて知らなかったよ」

 おしぼりを運びながら、注文を聞きにきたのは、奥さんらしき感じのいい女性だった。



「まあね…… えっと、いつもの盛り合わせと、生ビール。美緒さんはどうする?」

 雅哉は、メニューを広げ私に見せた。


 まあね…… を否定しようと思ったが、タイミングを逃してしまった。


「あ、ビールで」



「雑魚サラダと、揚げ物も旨いんだよ」

 雅哉はニコリとして言った。


「雑魚サラダも……」


「はいよ!」

 奥さんは、ちらりと雅哉を見て奥へと戻って行った。
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