手をつないでも、戻れない……
 彼は、一日として連絡をしてこない日は無い。

 二週間に一回は、必ずアパートで一晩過ごす。

 奥さんが夜勤の日だと思うが、あえて聞かない。奥さんが何をやっている人かも知らなかった。


「なあ、来月だけど、仕事休みとれないか?」


「えっ? どうしたの?」


 ベット中で、二人より添いあいながら言った。


「出張で、長野へ行くんだ。一日空くから一緒に行かないか?」


「いいの?」


「ああ、いい温泉があるから、たまにはゆっくりしないか?」


「うん」

 嬉しすぎて、顔が締まらない……


「そんなに、嬉しそうな顔されると、たまらん……」



 彼は、そう言うと、お腹に置かれていた手を、胸へと這い上がらせた。


「ちょ、何するのよ!」


 抵抗しても、どうにもならない事は分かっているが、体をよじらせ逃げようとしてみた。

 だが、やはり無理だった…… 


 無防備の体は、すぐに彼につかまり、甘い時間へと流されていった……

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