手をつないでも、戻れない……
「おう、えらく満足そうな顔しているな?」


「へへっ」

 仕事をしていた彼には申し訳ないが、私は大満足だ。


「俺も、風呂行ってこよう」

 彼は、部屋に入るなり、浴衣を持って温泉へと向かった。


 彼が戻る頃には、豪勢な食事が部屋に並べられていた。


 ビールで乾杯して、目の前の前菜を口に入れる。

 美味しすぎて、自分でもぱあ―っと顔が明るくなったのが分かった。


「旨いか?」


「最高―。」


「連れて来て良かった」

 彼も、嬉しそうにほほ笑んだ。


 食事がすむと、お土産コーナーへと向かった。

 特に、土産を買う人もいないが、それでも、職場にお菓子を買った。


「なあ、あれやらねえ?」

 彼が卓球台を指さした。


「いいよ。やろう!」


 ラケットを手に、ボールを打ち込んだ。

 彼も負けずとスマッシュしてくる。

 なんとか、返したボールがネット際におち、彼が思いっきり手を伸ばすが届かなかった。

 可笑しすぎて、声を出して笑った。

 そんな、やりとりが繰り返されていると、


「奥様。こちらにお荷物おきますね」

 という仲居の声に、はっと我に返った。

 自分が不倫している、後ろめたさなんて、すっかり忘れ、楽しんでしまっていた。



「たまにはいいよな……」

 彼が、ポンと軽く私の頭をたたいた。

 この人は、本当に私事を分かっているんだと思うと、愛しくてたまらなくなる。

 思わず、愛しさ溢れる目で、彼を見てしまった。


「そろそろ、部屋にもどろうか?」

 彼の言葉に、素直に肯いた。

 彼の腕に抱かれたかったからだ……
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