手をつないでも、戻れない……
 次の日は、近くの観光地をまわり、少し早い紅葉を楽しんだ。

 くだらない冗談を言っては、声を出して何度笑っただろうか……  

 楽しかった時間は、あっという間にすぎ、車は、アパートの前まできていた。


「楽しかったね…… ありがとう……」


「ああ…… 色々ごめんな……」

 彼は少し切なそうに言った。


「ねぇ、樹さん……」


「んっ?」

 彼は、顔を私に向けた。


「埋め合わせとか、気にしなくていいから…… 私の気持ちは、樹さんだけだから…… 樹さんの胸の中に、私の居場所があれば、それでいい……」


「美緒……」

 彼の手が、私に向かって伸びてきたより、先に私は、彼の唇を塞いだ。

 驚いた彼を、チラリと見て、私は車から降りた。



 アパートの玄関を入るまで、彼の車は動き出さなかった。

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