手をつないでも、戻れない……
 時間も決めてない約束に、確認しようかとも思ったが、行けばなんとかなるだろうと、七時少し前に、焼き鳥屋の入口を開けた。


「いらっしゃい」


 鉢巻姿のおじさんは、私を見るとニコリとした。


「こんばんは」


「奥でお待ちだよ」

 おじさんは、奥の席をチラッと見た。


 そこには、雅哉の方手を上げる姿があった。


「ごめんない。時間を聞いてなくて」


「そうだっけ? あははっ」

 と雅哉は笑い出した。


 笑う姿に、本当に仕事の穏やかなイメージとは違うと、改めて感じる。



 雅哉の前には、生ビールとお通ししか無い。


「あら、いらっしゃい注文きくよ? 全く、さっきまで不安そうな暗い顔の雅哉は何処へ行ったのか?」

 奥さんは、呆れたように雅哉を見たあと、ニコリと私に笑顔を向けた。


「余計な事はいいから、早く、生ビールと、盛り合わせ!」


 雅哉は、顔を真っ赤にして言った。


「あの…… 雑魚サラダも……」


 私は、遠慮しながら小さな声で言った。


「あははっ。了解」


 奥さんは、笑いながらカウンターの奥へと戻って行った。
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