手をつないでも、戻れない……
「ど、どうして……」

 驚きのあまり声が上手く出ない……


「ほんと、どうしてだろう? 買い物に来ただけなのに……」


「そうよね……」

 何とか笑おうと思うのだが、顔に力が入らない。



「そんな顔されると、ほっとけなくなるんだよな……」

 雅哉は、ふう―っとため息をつくと、眉間に皺を寄せ私を睨んだ。



「ごめんなさい…… もう、帰るから……」


 私は、向きを変えようとしたのだが、


「待ちなよ!」

 がっしと腕を掴まれた。


 動けなくなり、仕方なく雅哉の方へ顏を向けた。
 

「せっかく来たんだから買い物しよう?」


 雅哉は、相変わらずの屈託のない笑顔を向けてきた。

 

「そんな、気分になれない」


「ふんっ」

 雅哉は鼻で笑った。


「何が可笑しいのよ!」


 私は、キッと睨んだ。


「悲劇のヒロインみたいな顔して、僕が、優しく同情するとでも思った? こんな事、初めから解ってた事だろ? 悲劇はあんたじゃなくて、あっちの家族かもしれないんだぜ!」


「もう、それ以上言わないで!」


 私は、涙目で雅哉を睨むが、掴んだ手の力は緩まなかった。


「いや、これだけははっきり言うぞ! いくら、あいつの手を掴んでも、十五年前には戻れないんだぞ! あいつの背負っている物も、おまえの抱えている仕事だって、十五年前とは違う。だから、絶対に戻る事は出来ないんだ。前に進むしかないんだ!」


「うっ……」

 思わず、堪えていた涙が溢れ出す。


 こんな所で泣いて、雅哉に迷惑かけるわけにはいかない。

 すると、掴んでいた雅哉の手が伸び、私の頭を抱え奥の壁へと動いた。

 まわりから見えないようにしてくれた事が分かった。


「ばかだな…… 僕がいる事も十五年前とは違うはずだ……」

 そう言って、雅哉は私の頭を優しくなでた。

 雅哉の手は、とても暖くて、現実に向き合わせてくれるものだった。


 私は、今日やっと、現実を知ったんだ。

 頭で分かっていても、いざ目の前にすると、平静ではいられない……


 私が、壊してはいけない物を、初めて見たからだ……

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