手をつないでも、戻れない……
数日後……

 彼が、アパートに来た。

 お互い、それぞれの答えを出している事は、なんとなく分かっていた。


 彼の家族の幸せそうな姿を目の当たりにしてから、私の中でまるで自分と彼との間に見えない線が引かれている気がした。


 いつものように、食事を済ませるがぎこちない…… 

 どちらからが、先に口を開かなければならない……


「樹さん……」

「美緒……」

 ほぼ、同時の声に、お互い目を合わせ、小さく笑った。


「もう、終わりにしましょう……」


 先に言ったのは私だ……


「ふう―」

 彼は、ため息まじりに笑った、


「何?」


「美緒が、そういうじゃないかと思っていたから」


「そう……」

 私も小さく笑う。


「娘の高校受験が終わったら、妻に全て話そうと思っている」


「えっ。何言って……」

 私の言葉を遮るように、彼は話を続けた。


「ごめん、黙って…… ずっと考えていた。話がついてから美緒には話そうと思ってた」


「無理よ…… そんなの……」


「もう、決めてる」


 彼の目は、真っ直ぐで覚悟を決めていることが、十分くらい伝わってきた。


 私は、何が見えるわけでもない窓の外を、しばらく見つめた。
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