手をつないでも、戻れない……
「私達、いい夫婦よね?」

 妻は、俺の方へ目を向けた。


「ああ……、勿論。どうしたんだよ?」

 俺も、チラリと妻を見た。


 なんだか、ぎこちなく目が合わさった。



「由梨がね…… 看護学校に行きたいんだって」


「え? 別に高校卒業してからだっていいんじゃないのか?」


「私もそう言ったんだけど、寄宿生の学校へ行きたいらしいの」


「う―ん。よく分からないが看護師になるには、それの方がいいのか?」


「早く現場に出られるし、経験も多く積めるかもしれないわね」

 妻の言葉は、確かな事を言っているのだと思う。



「そっかあ」

 俺には、娘の為に何が正しいのか答えに迷ったのだが……



「でも、かなり偏差値高いから、由梨も必至で勉強しているの。だから、あなたも、由梨が不安にならないようにお願いします……」


 妻の言葉の意味が、深いものを探っているように聞こえた。


「ああ……」

 俺はとりあえずの返事をした。



「それから、最近、夜勤の日、由梨をお母さんに預ける事が多いみたいね」



「そうかもな…… 飲み会が重なる事が多かったからな」

 ありきたりな言い訳に、自分でも呆れる。


「そう……」

 それ以上、妻は何も聞かなかった。

 それが、かえって、何かを感じているように思えて息苦しくなる。


 だが、俺は、娘を義母に預ける必要は無くなったのだ。

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