手をつないでも、戻れない……
[パパ―。ママ―。合格!」

大きく手を振って、もうすぐ満開を迎える桜の木の下を今にも泣きそうな顔で走ってくるのは娘の由梨だ。


「やった!」

俺達家族は、手を取り合って喜んだ。

誰が見ても、幸せ家族だろう。

実際、幸せ家族なのだから……



 美緒の部屋を最後に出てから、二か月が過ぎていた。



 あれから一度も美緒からの連絡は無く、今の状況で俺の方から美緒に連絡をするのは無責任だと思っていた。



 俺の胸の中は、いつだって美緒が居た。

 ちゃんと、美緒の居場所が俺の胸の中にある事は変わらなかった。


 もしかしたら、十五年前から、気付いていなかっただけなのかもしれない……



 年甲斐もなく、ふと美緒の事を思い出すと、胸が苦しくなる自分に、苦笑いするしかなかった。

 今になって、美緒の存在の大きさを思い知っていた。




 義母も含め、娘の合格祝いをした後、娘は義母の家に泊まりに行き、家には、妻と俺だけになった。


 めったに二人きりにはならない。

 いつもは、娘が中心にいて、話題を振ってくるので、和気藹々とスムーズに会話が出来ていた。


 自分の妻なのに、どう話しかけていいかわからない事に戸惑う。


 だが、俺には話さなければならない事がある。
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