手をつないでも、戻れない……
 普通なら自分の部屋に行くのだが、このチャンスを逃すわけには行かないと思い、妻の方へ顏を向けた時だった。


「お茶を入れるわね……」

 俺の覚悟より、妻の声の方が先に居心地の悪い空気を崩した。


「ああ……」


 俺は、ダイニングテーブルの椅子に腰を下ろした。

 妻と二人きりでお茶を飲むなど、いつ振りだろうか? 

 改めて、俺達夫婦の形を考えさせられた。


 湯呑を俺の前にコトッと置くと、妻も自分の湯呑を手に俺の前に座った。


 いざ向き合うと、とてつもなく違和感がある。

 十五年も夫婦として、しかも穏やかに過ごしてきたのに、いつから向き合う事さえしなくなっていたのだろうか? 

 思わず、何から話せばいいのか分からず、言葉を飲んでしまった。



 お互い、湯呑を口に運び、小さなため息を漏らした。



 妻に目を向けたと同時に、妻の言葉と重なった。


「会わせてもらえないかしら?」


 妻の言葉に疑問しか浮かばない。
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