手をつないでも、戻れない……
戻れない……
~美緒~

 私は、カッコよく喫茶店を出たつもりで、颯爽と歩いていた足が、どんどんと早くなり、いつの間にか走り出していた。

 横断歩道の信号機が赤になり、息を切らしながら足を止めた。


 ふと、ショーウインドウに映った自分の姿に、情けなくて、口紅を手の甲でゴシゴシと拭った。



 何も考えないように、ここまで来たのに、手にべったりと着いた赤い色に、気持ちが崩れてしまった。



 私は、誰よりも彼に愛されている自信があった。

 だから、彼を守ろうと必死になれたんだ。

 どこかで私は、彼の奥さんに勝っているのだと思っていたんだ。


 でも、十五年間の絆を見せつけられて、自分の愚かさを知った。

 そして、私はそんな理解ある女なんかじゃない。


 誰かを傷つけてでも、彼を欲しいと思う最低な自分を知ってしまった。


 悔しさと嫉妬が、胸から溢れ出てきて情けない…… 


 私はバカだ…… 


 こんな事なら、正直に、彼は私の物だと、奥さんと向き合うべきだった……



 私は、いい人間でいたかったのかもしれない自分が愚かで、叩きつけたくなった。





 その時……


 信号機が青に変わり、横断歩道に足を踏み入れた瞬間、がしっと腕を掴まれた。


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