二人の僕が見る君
悲劇の傍観者
僕は死んだ。

顔も見たことがない人の猫をかばって。

僕は自分の体を見下ろしていた。

猫の飼い主は見ていられない様な状態の僕を見て嗚咽を伴って泣いていた。

幼なじみの彩香の状況が把握しきれていない顔からは大粒の涙のが流れ出ていた。

僕は満足感に満たされていた。
僕が死んでこんなに悲しむ人がいるなんて思わなかった。

ふと、けたたましいサイレンと共にやって来た救急車が僕の体を連れていく。

体と引き離された僕は次第に意識が薄くなって言った。そのなかで後悔と満足感がいがみ合っていた。


……しばらくたって

仰向けに横たわった涙の溜まった目にはいっててたのは
見たことのない象牙色の天井。
シミが多いカーテン。
静寂のなか、延々と鳴り続けるペースメーカー。

手を握り、布団に顔を埋める彩香。
看病してくれてたようだ。頭にそっと手を置く。

「って!」
無音の病室に響き渡った声はあまりにも大きかった。
驚いて引っ込めた手をもう一度よくみた。


痩せ細って筋肉の落ちた腕が俺の体にはついていた。

「俺は一体何年寝てたんだ。」小声で俺がぼやく。

「3年だよ。お父さん」

不意に死角から聞こえる彩香の声は泣いていた。

「ん?お父さん?何で俺が彩香のお父さんなんだ?」

「覚えてないの?まだ記憶は完全じゃないみたいだね。」

俺は衰えてやっと歩ける体を必死に動かして鏡の前にたどり着いた。
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