二人の僕が見る君
鏡に写っていたのは白髪混じりの40代程の男だった。

病床から動かなかった体は軽くなってしまった自分の体重も支えられず、ただ震えていた。

呆然と立ち尽くす俺を彩香は切なそうな顔で見つめていた。

彩香の父、三神堅は三年に脳の病気で倒れてそれきり目を覚ましていなかった。

彩香は苦しみと嬉しさの編み込まれた様な表情で、窓の向こうに見える救急病棟の方を見ていた。


「奏くんはやっと一命はとりとめたけど意識が戻らないままなんだ。お父さんが帰って来て嬉しい。だけど、奏くんのことを思うと喜べない。」

娘を無理やり喜ばそうとする父親なんていないだろう。
と思ったが、全てを失った彩香のそばに奏の意識を宿した三神堅がいることで少しは良いことがあれば、と思った。

もう、意識が奏であることを話してしまおうと、思ったが、彩香を混乱させると困るのでまた今度にしておこう。

その日の夜は奏の両親が面会に来てくれた。

「娘が世話になっています。」と、自分の親にいっているのはとても不思議な気持ちだ。

「奏があんなことになった今、彩香さんだけが心の支えです。どうでしょう?退院したら彩香さんの住む私たちの家に堅さんも住んでくれませんか?」

これまで通り自分の家に住めるのは嬉しいが、意識が奏であることを話してから反応を見て判断するべきと思った。
てか、なかなか立ち直りが早い親に、子の俺は少し残念さを覚えた。

「まだ社会復帰には多くのリハビリが必要なのでもう少し考えさせてください。」
そうだ。これでいいんだ。

消灯の時間になると孤独感が一気に込み上げてきた。天井のシミが歪んだ顔のように自分を見ているような気がした。

目を閉じて自分の救いになることを考えた。家族との思い出。友達との思い出。
そして、彩香との思い出。
< 2 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop