=ウサギくんとオオカミさん=


ずっと居場所が欲しかった。
ずっとなかったから。

小さい頃は姉ちゃんの代わりだったけど、必要とされた。
女の格好していれば褒めてもらえた。
愛された、気がした。



でも、成長するにつれて、それは幻想だと気付かされた。



それでも、俺にはあの場所しかなくて。
殴られても罵倒されても、俺にはあそこしかなくて。


誤魔化す方法を覚えて、そうやって自分の居場所を護って。
姉ちゃんに助けられてからも、その時の感覚は消えなくてケンカばっかしてた。


だから、海老名を助けたとかいう話も、大神の話も、あの虎太郎って後輩の話だって。
全部、全部ただその消えない行動が起こしたこと。
むしゃくしゃして、なんでもよかった。


もう隠さないといけない怪我なんてしていないのに、衝動に駆られて自分のためにやったこと。
だから、覚えてない。
自分がそんなことをしたことなんて。


「俺は、俺のために…ケンカしただけだ…。お前らを助けようとしたわけじゃない」

「それでも、そうだとしても私は凛くんに助けられたんです。それは事実です」

「そうだ。その行動のおかげで、俺は今生きていられる。こうして笑ってられる。それが事実だよ」



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