僕らのチェリー
子どもの遊ぶ声が耳の奥でこだましてなかなか離れない。
澪は自転車の後ろに跨ってヨネの華奢な腰に手を回した。
ゆっくりと動いてしばらくすると暖かく柔らかい風が過ぎる。
「好きな人ってどんな人?」
と彼が訊いた。
「太陽みたいな人」
と澪は答える。
「へえ」
「それと一生振り向いてくれない人」
「もしかして片思いだったりする?」
澪が黙っていると、彼は慌てて付け加えた。
「ごめん。聞いちゃまずかった?」
「ううん」
そこで会話は途切れ、いつの間にか二人を乗せた自転車はヨネの自宅へと着いた。
一旦着替えたいと言って彼は中へと入り、澪は外で待つことにした。
ちょうど今立っているこの道の向こうに恭介の家が見える。歩いて五分もかからない距離だ。
澪は初めて見るヨネの家を見上げた。
ここに杏奈先生は何度来ていたのだろう。
そんな事を考えた。