僕らのチェリー
3.追憶
確か春の芽がもうすぐ顔を出す季節だった。
誰もいない教室で杏奈先生と一緒にいた。いつもと同じように何気ない会話を交わしてそれが途切れた時、ポケットの中にインスタントカメラがあることに気付いた。
先生と二人で撮った写真が欲しい。
そんな想いから買ったそれを見せると、先生は快く頷いてくれた。
誰かに撮ってもらおうと思ったがもちろん生徒の姿は見当たらない。ましてや放課後の教室で先生と二人っきりでいるところを誰かに見られでもしたら何言われるか。
悩んだ末、彼女を携帯電話で呼び出した。
彼女だけが先生との関係を知っている唯一の信頼できる友人だからだ。
ちょうど彼女はまだ家路の途中だったらしく、すぐ引き返すと言ってわざわざ教室まで走ってきてくれた。
「ったく仕方ないなあ。写真なんて自分で撮ればいいじゃん」
ぶつぶつと文句を言っていても、彼女の手はしっかりとカメラのシャッターを押すところまできている。
思わず、先生と顔を見合わせて笑った。
「はいはい二人ともカメラ見て。1足す1は2で撮るからね」
と彼女に言われて表情が強張った。
先生との初めての写真。
そう思うと緊張でうまく笑えない。
それを悟ったのか、彼女はカメラを下ろした。
「ヨネ、今しかない時を無駄にしちゃだめ。今先生と一緒にいることを幸せだと思って笑うんだよ」
彼女のその言葉で自然と緊張は解けた。
だからこの時撮った写真は、本当に心から幸せだと思った瞬間が写っている。