僕らのチェリー
自動ドアが何度も開け閉めを繰り返していた。キョウはまだそこに突っ立って、こっちをじっと見つめていた。
「言ったん?」
「…なにを」
「あいつ、言ったん?」
「だから何をだよ」
「おまえのことを好きだってことだよ」
ふいにあの言葉が蘇る。
もしあたしの好きな人がヨネだったらどうする?
ヨネは驚いた。
「おまえ知ってたのか?」
「知ってるもなにも、よくおまえのことを相談されたよ。何かある度毎回毎回おれを呼び出しては泣いて、いっつもその繰り返し」
冗談、だと思ってた。
泣いてた?
笠原が?
「…まあ、今回は呼び出しなかったけどな」
とポケットから携帯電話を取り出し、キョウは何かを考えるようにそれを眺めた。
「帰るわ。じゃあな」
「キョウ、待てよ」
慌ててキョウを呼び止めた。
なんだよ、とも言いたげに怪訝な表情を浮かべるキョウにおれはなかなか言葉が出ない。
気付かなかった。
どうしよう。
情けないことにそれが本音だ。