僕らのチェリー


「あるよ」


返ってきた答えがあまりにも意外で、思わず目を見開いた。


「なんだよ。そんなに驚くことかよ。おれにだって人並みの感情はある」


キョウが俺を睨みつけた。それでもどこか照れくささがやや混じっているような、そんな表情だった。


「じゃあ帰るわ。おまえが変なこと聞くから雨降ってんじゃん。最悪。傘持ってきてねえし」


いつからか、外は強い雨で水溜まりが所々にできている。

おれは商品の傘をレジ打ちしてキョウに渡してやった。


「サンキュー」

「ちゃんと笠原に謝れよ」

「分かってるよ」


そうぶっきらぼうに言った後、キョウは傘を差しながら走っていった。

次第に雨音は強くなり、明け方近くになるまでずっと止むことはなかった。
< 118 / 173 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop