僕らのチェリー
外はまだ、雨が降っていた。
吐息が雪のように白い。
空を見上げても灰色の雲が広がるばかりで、もちろん月など見えるはずもなかった。
昼まで晴れていたのに。
昨日まで、先生は元気だったのに。
どうして。どうして。
こんなにも突然に。こんなにも簡単に人はあっけなく消えてしまうものだろうか。
もう杏奈先生に会えないと分かっていても実感がわかない。
びくっ、と澪は体を揺らした。
すっかり冷えた澪の手のひらに突然の温もりを感じた。
グレイのフードを深く被った彼の前髪から雫が滴り落ちる。
澪はずっとそれを見つめた。
水滴は彼の顔に落ちて、やがては頬をつたい、唇を赤く濡らした。
彼は繋いだ手を決して離そうとしなかった。
「ねえ。あたしがひどいことを言ったから、アンナ先生はいなくなったの?」
澪が訊くと、彼はゆっくりと首を横に振った。
「それは違う。澪のせいじゃない。先生は事故だったんだ。仕方がなかったんだよ」
まるで自分に言い聞かせるように、彼は繋いだ手を強く握りしめる。
澪はその場でしゃがみ込んだ。
雨音はコンクリートを叩きつけて、いつまでも鳴り止まなかった。