僕らのチェリー
4.止まない雨音
家に帰って扉を開けると大きな白いマスクをした奈美が立っていた。ミュールを履いてどこか急いでいる様子だった。
外は暗闇にどっぷりと浸かっている。出かけるにはもう遅い時間だ。
「どうしたの。今からどこか行くの?」
奈美は足元を見つめたまま黙っていた。
「家に帰るの?」
しかし、その顔を奈美の両親に見られたらどうなるか分からない。
心配性の二人だから大事になるのは予想がついている。だから痣が引くまで澪の家に置いてくれと言ったのは奈美だ。
「ねえ奈美。どこ行くの?家に帰るならあたしもついて行こうか」
奈美は首を横に振るばかりでなかなか行き先を教えてくれなかった。
すると奈美の肩がかすかに揺れた。
流行りの歌に設定した着信音は止まることなく、彼女の持っている鞄の中からずっと流れていた。
でも彼女は電話に出ようとしない。
澪が鳴ってるよ、と言っても奈美は知らない振りをして床下を一点に見つめていた。長い睫が揺れている。
その不自然な様子に澪は嫌な予感がした。
「もしかして健二先輩と会うんじゃないよね」
奈美が顔を上げた。
目が泳いでいる。
予感は当たっていた。