僕らのチェリー
「ごめん。あたし奈美のケータイ勝手に見た。それでアドレス控えてヨネと一緒にあの男と会ったの。途中で恭介が入ってきたからちゃんとした話ができなかったけど。
でも奈美。あたしあの男と会って思ったんだけどもう関わらないほうがいいよ。
だって奈美を殴ったこと少しも反省してなかったんだよ。むしろ」
「なんで勝手に会ったりするの?」
低い声に驚いて顔を上げると奈美の目は澪を睨んでいた。それは彼女が本気で怒っていることを示していた。
「確かに健二はどうしようもない人だよ。別れたほうがいいってことも奈美はちゃんと分かってる。
でも澪に健二のこと悪く言う権利はないと思う」
「あんた、今行ったらまたあの男に殴られるかもしれないんだよ。それでもいいの?」
「……健二は。普段は優しい人だもん。澪に奈美の気持ちは分かんないよ」
「待って、奈美」
いつから降っていたのだろう。
奈美は雨で濡れた道を走っていってしまった。
暗闇の中に消えていく彼女の後ろ姿を見つめて、澪はどうすることもできずその場に座り込んだ。
「奈美の気持ち分かるよ。分かるから止めるんじゃないのよ」