僕らのチェリー
どうしよう。
奈美の身に何か起こったら。
ざあざあと雨足は強くなっていく。
目の前の扉は開いたままで時々外から冷たい風が中に入った。
あれから何分ほどが過ぎたのだろう。奈美が戻ってくるはずもなく、澪はずっと廊下に座って俯いていた。
もう二人の問題だと思って放っておくしかないのだろうか。
奈美がどんどん傷を作ってもあたしは見て見ぬ振りをするしかないのだろうか。
そんなこと耐えられない。
間違っている。
その時、扉の向こうで物音がした。そこにはグレーのフードを被った男が立っていた。
最悪だ。
今、あたしが一番見たくない顔。
「なにしに来たの」
澪はその人物を強く睨みつけた。
「まだ怒ってんのかよ」
怪訝に眉を寄せながら恭介はポケットからライターを取り出し小さな火を灯した。
「ここで煙草吸わないで。もう帰って」
澪がそう言うと、恭介はしばらく考えた後に煙草をポケットの中にしまった。そして座り込んでいた澪の隣にゆっくりと腰を下ろした。
恭介の猫っ毛が雨で少し濡れていた。