僕らのチェリー


「杏奈先生にあたしの気持ちを伝えたかった。
でもやっぱり言えないよ。
あんなにヨネと会うこと楽しみにしてる先生にあたしの気持ちなんか言えない…」


泣きじゃくる澪の頭を恭介はずっと優しく撫でてくれた。

黙って話を聞いてくれた。

しばらくして涙が乾き始めたころ、澪は小さく呟いていた。

無意識に出た一言だった。


「アンナ先生がいなくなってくれたらどんなにいいか」


恋心は不思議なもので、彼が一生振り向いてくれないと分かっていても、澪が彼を想う気持ちは溢れるばかりだった。

想えば想うほど杏奈先生に対する嫉妬が膨らんで醜くなっていく自分が嫌になって、その度に澪は苦しんだ。

その苦しみから逃れたくて吐き出してしまったあの言葉がまさか、現実になるなんて思わなかった。

翌日杏奈先生が事故に合ったと聞いた時、嘘であってほしいと願った。


「良かったな。願い事が叶ってよ」


いつかの恭介の言葉が胸に突き刺さる。

違う。

あたしはそんなこと願ってなんかいない。

あたしはそんなこと…


本当に?

あの日からずっと心の奥底で醜い自分があたしに何度も何度も囁いていた。

あたしは本当に、あの二人の幸せを心から願っていたのだろうか。


本当に?

ねえ、本当に?
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