僕らのチェリー


「澪」


恭介の声にはっと我に帰る。

いつの間に扉を閉めたのだろうか。雨音は遮断されて玄関内は静まり返っている。


「気にすんなよ。単なる偶然だったんだ。澪のせいで先生が亡くなったわけじゃない」


いつになく恭介の表情は優しかった。

彼の手が伸びて、少しだけ冷たい指が澪の涙をそっと優しく拭き取る。


「澪のせいじゃない」


と恭介は何度も言い聞かせるようにいった。

恭介なりに慰めてくれているのだろう。

澪は小さく頷いた。


「もう寝ろよ」


壁時計はすでに深夜の三時を差している。

恭介はゆっくりと立ち上がって扉を開けた。
雨は止んでいた。
冷たい風が頬を横切り、犬の遠吠えが遠くで聞こえた。


「じゃあな。
秋谷のことならおれがなんとかするから。
心配すんな」


澪は口元を歪ませ、彼を凝視した。


「自業自得だから、二人の問題だからほっといた方がいいんじゃなかったの?」


もちろん、嫌みを含めたつもりで冷たく言い放った。

恭介は苦笑いを見せた。


「できるだけ秋谷が被害に合わないように見張ってるよ。
それしかできなくてごめん」


そう言い残して彼は家を後にした。
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