僕らのチェリー
第四章
1.広がる夕闇
あれから夏休みが終わるまで澪は一度もヨネに会わなかった。また奈美も家に戻ってくることはなかった。
始業式の朝、学校の廊下でヨネとばったり会った。
あのことがあって二人の間には気まずい空気が漂い、澪はそのまま目も合わせず通り過ぎようとした。
「おはよう、笠原」
彼に腕を引っ張られて足を止めた。
彼は白い歯を見せてにこにこと屈託なく笑っている。しばらく見ない間に肌が日に焼けて黒くなっていた。
告白ともいえないが、無意識に出たあの言葉をなかったことにしてくれているのだろうか。
それが、受け取れないという答えだとしても。
「おはよう、ヨネ」
澪は微笑んで挨拶を返した。
きょうまで胸に広がっていたどんよりとした雲がゆっくりと晴れていくのを感じた。
今はこれでいい。
例え恭介に臆病者と罵られてもあたしはそばでずっとヨネが笑っているところを見ていたい。
まだここに踏みとどまっていたかった。