僕らのチェリー
澪がそれを拾い上げると恭介はあ、と声を漏らした。
どうして身につけないのか疑問に思ったが、その時は大して気にも止めなかった。
恭介は腕時計を受け取ってすぐにポケットの中にしまった。
「奈美は今どうしてるの?」
「大丈夫だよ」
その曖昧な返事に澪は眉をしかめた。
恭介がきょうも朝まで働いて寝不足なのは分かるが、ずっと心配しているこっちの身にもなってほしい。
机に伏せてそのまま眠りに入ろうとする恭介の肩をヨネが強く掴んだ。
「学校に来てないんだから大丈夫なわけないだろ。
ちゃんと答えろよ。
秋谷は今どうしてる?」
恭介はため息を吐いて、渋々と答えた。
「先輩ん家にいるよ。
まだこの間の顔の腫れが引いてないからしばらく学校に行かないって言ってた。
安心しろ、あれ以来先輩は秋谷を殴ったりしてねえから」
それを聞いて澪とヨネは安堵した。
殴られていないのならひとまず安心だ。
少しはあたしたちの気持ちがあの男に伝わったのだろうか。
自分たちがしたことは無駄じゃなかったのかもしれない。
そう思い込んでいた。
しかしそんなに甘くはなかったことを思い知らされる日が来るとは澪もヨネも想像していなかった。