僕らのチェリー


「まだ帰らないの?」


夕日が差し込む放課後の教室で恭介は一人席に座っていた。彼の手元が夕日に反射して橙色に光っている。

腕時計をポケットの中に戻すと恭介は外を眺めた。


「どうしてその腕時計つけないの?」

「壊れてるんだよ」

「ふうん。壊れてるのにわざわざ持ってくるんだ。変なの」


澪はチョークを手にとって、黒板に落書きをし始める。

白い粉が宙に舞った。


「それより帰ったんじゃなかったのか」

「さぼり魔の恭介には縁のない話だろうけど、さっき緑化委員会が終わったとこ。
来週末に校内一斉掃除するんだって。
きょうはその打ち合わせ」


決して上手ではないほうきの絵を描いてみせると、恭介は露骨に嫌そうな顔をした。

外で部活のかけ声が聞こえる。

恭介は窓に目を向けたまま訊いた。


「今、ヨネとどうなってんの」


澪はどうもしない、と答えた。


「振られたか、それとも付き合ってんのか」

「うるさいなあ、相変わらず恭介は無神経だね。ちゃんとした答えは受けてないよ。
でも今はそれでいいの。
お願いだからあたしのことはそっとしておいて」


澪が強く言うと、恭介は珍しくそれ以上訊いてくることはなかった。

夕日に照らされているせいだろうか。

黙って外を見つめる恭介はいつもより違って見えた。
< 134 / 173 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop