僕らのチェリー


「ヨネはこの時計知ってる?
恭介に持ってるように言われたんだけど」


澪はヨネに腕時計を見せた。

どうやら彼も初めて見たようで怪訝に眉を寄せながらそれを眺めていた。


「壊れてるのにそれをずっと肌身離さず持ってるってよっぽど大事なものなのかな」

「大事なものだったら人に預けるような真似はしないだろ」

「そうだよね」


信号が青に変わった。

澪は後ろに跨ると自転車はゆっくり前へと進んだ。


「キョウがその腕時計持ってることおれ知らなかった。
でももしそれが大事なものだとしたら一体なんだろうな。
もしかしたら亡くなった親父さんの形見なのかもしれない」


なるほど。

それなら高校生には不似合いな腕時計も、それをずっと恭介が持っていた理由も納得がいく。
でもどうして恭介はそんな大事なものをあたしに預けたのだろう。

嫌な胸騒ぎがするのは気のせいだろうか。


「今からキョウのバイト先行ってみようか。
本人に直接聞くのが一番だろ」


澪が不安そうにしているのを見かねたのかヨネは提案した。

澪が小さく頷くと、自転車は方向を変えて恭介のいるところへ向かった。
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