僕らのチェリー

恭介がバイトしているコンビニエンストアはヨネのところとは違う系列で、駅から少し離れているせいか客の入りは少なかった。

時間帯が遅いということもあり店の前では柄の悪そうな人たちが円を囲むように地べたに座っていた。

ヨネが後ろにいるように促してくれ、澪は彼に隠れて店内に入ろうとすると、どこかで聞いたことのある声がした。


「恭介が全部オゴりだっつーからおまえら遠慮しねえでじゃんじゃん食えよ」

「うぃース。さすが健二先輩スね」


後輩らしき男の口から出たその名前に驚いて、澪とヨネは思わず振り返った。

視線に気付いたその男が顔を上げる。

電光灯で照らされたその顔は紛れもなくあの男だった。


「どっかで見たことあると思ったら奈美の友達じゃん。
こんなところでなにしてんの?」


ゆっくりと近づいてくる健二に警戒しながら、澪は訊いた。


「奈美は?奈美と一緒じゃないの?」

「奈美ならおれん家に引きこもってるよ。おまえらに会いたくないんだってさ」

「嘘」

「マジマジ」


健二はへらへらとだらしない笑みを浮かべた。

なんだろうか。

澪は健二が以前会った時とどこか違うように感じた。奇妙な違和感がぐるぐると胸の中で渦巻いている。

会話を交わしているのに健二の目は違うところを見ている気がする。視点がまるで合っていない。

ヨネも気付いたようで、彼から避けるように澪の腕を引っ張って中へ入った。
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