僕らのチェリー
中へ入ってあっと驚いた。
恭介はカウンターで背中を向けて雑誌を読んでいた。
店内は誰もいなかった。
平日の真夜中は客はあまり来ないとヨネが話していたが店の前で大勢の若者が囲んでいれば尚更だ。
怖がって誰も近づいてこない。
客が来たというのにも関わらず雑誌を読みふけっていた恭介は澪たちの存在に気付くと目を丸くした。
「何してんの、おまえら」
「それこっちの台詞。おまえちゃんと仕事してんの?
それに店の前でたむろしてる奴ら追い払えよ」
ヨネは呆れたようにいった。
「うるせえよ。暇なんだから仕方ねえだろ。ほっとけよ」
と恭介は冷たく言い放った。
「恭介。店の前にいる人たちって」
澪が訊くと、恭介は「健二先輩とその連れ」と即座に答えた。
外で缶を蹴る音が次々と響く。
遠くのほうでアルコールの缶がごろごろと転がっていた。
笑い声はいつまでも止まない。
自然と澪の手が震えた。きっとヨネも同じ事を考えているに違いない。彼もまた不安そうな目をしていた。