僕らのチェリー

扉を開けるとヨネと奈美の両親がベッドを囲んでいた。澪はベッドに横たわっていた奈美の元に駆け寄った。

驚いた彼女は体を起こし、それから大きな目に涙を浮かべた。


「澪、ごめんねえ」


いつもの泣き虫の奈美だった。

澪は彼女を抱き寄せて、つられるように涙を流した。

ろくに食べ物を与えてもらえなかったようで小さな体は前より少し痩せていた。体の所々に赤黒い痣があり、顔の腫れは全くといっていいほど引いていなかった。

でも良かった。

彼女が無事でなによりだった。

澪はぎゅっと奈美を強く抱きしめた。


「言ったろ。キョウは正義の味方だって」


隅に立っていたヨネが澪の肩をなだめるように優しく叩いた。


「恭介が警察に通報してくれたの。おかげで奈美は助かった。恭介が助けてくれなかったら健二に殺されるところだった」


と奈美は話した。

しかし周りを見渡すが、見慣れた姿はどこにもなかった。


「恭介は今どこにいるの?」


と訊くと奈美は大きな目を伏せた。


「分からない。恭介は覚せい剤やってないから捕まることはないと思うけど、家に警察が来る頃には恭介の姿はもうなかったの」

「そう」


しばらくして澪は携帯電話を手に丸椅子から立ち上がった。


「ちょっと恭介に電話かけてみるね」


奈美にそう伝えて病室を後にした。
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