僕らのチェリー

3.文字盤に隠された真実




刑事の姿が見えなくなると、澪はふっと力が抜けたように長椅子に腰掛けた。

奈美が心配して澪の背中を優しくさすってくれた。

ただ一人、ヨネは浮かない顔で廊下に落ちた腕時計をじっと見つめていた。

沈黙が漂う中で時々奈美が両親と会話する声が耳に入ったけれど、内容が全く頭に入らなかった。

呆然としながら遠くを一点に見つめて、さきほどの刑事との会話を思い出していた。

刑事が言うには武田健二の原付バイクに血痕が見つかって、それはひき逃げの可能性があるということだ。

そしてその原付バイクは恭介も使っていた。

彼もひき逃げの犯人である確率は高い。だからあの刑事は恭介を追っている。

そこまで整理したはいいが、あまりに突然のことで頭の中はすっかり混乱していた。

恭介がそんなことするはずがない。

血痕はきっと武田健二の仕業だ。

あの男が恭介に罪を押し付けているに違いなかった。
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