僕らのチェリー

どうして今まで気付かなかったのだろうか。

彼からのサインは十分にあったはずだった。


「先生はずっとおまえだけを見ていた。
それが悔しかったんだ」


彼はあたしと一緒だった。

好きな人に振り向いてもらえない悲しみが彼の中にもあった。

彼はずっと杏奈先生のことが好きだったのだ。


「好きなものを求めることは決して悪くないことなのに、人間ってどうして我慢するんだろうな」


いつだったかそう話した恭介の背中が寂しげだったのを思い出して胸が熱くなった。

満月の光が彼の涙を照らしている。

叶うことのない片思いは永遠に終わることのない恋心となってしまった。

後悔と隣り合わせの恋心を彼はずっと一生抱えていかなければならないのだ。

これから先ずっと。
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