僕らのチェリー

彼が校舎に戻ってからも澪は焼却炉の横で座っていた。

後ろにある金網のフェンスの向こうでは、あの交差点がよく見える。

ヨネはずっと、振り返らなかった。

澪はそんな彼を慰めることも、なだめの言葉たった一言さえもかけてやることができない自分に苛立ちを感じた。

ポケットの中から出したのは携帯電話。

画面にひびが入って、杏奈先生が彼宛に送った最後のメールは見られない。

もう使えないそれを、澪は先生がいなくなった日からずっと、未だに彼に返せずにいた。

裏返すといつだか拾った淡い桃色の花びらが張り付いている。


「ねえ笠原さん。知ってる?
桜の花はね、薔薇の花と同じ仲間なんだよ。
だから桜の花は桃色じゃなくて、本当は紅色が隠れた色かもしれないね。
不思議ね」


最後の電話で、杏奈先生はそんな事を言っていた。

事故が起こる前日の夜、澪は杏奈先生に電話をかけた。あの時の先生の声がきのうのことのように、耳から離れない。
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