僕らのチェリー
「もうすぐ桜が咲く季節ね。
早く学校の近くにある桜並木道歩きたいなあ。
でもじつは出店が一番の楽しみだったりして。
毎年出してるそこの焼きそばがすっごくおいしいのよね」
そういって子どものように無邪気に笑う彼女を見ているとバイトの疲れもすぐに吹き飛んだ。
彼女と一緒にいることは自分を取り巻く環境を少しでも忘れられる唯一の時間でもあった。
母子家庭という複雑な環境のせいで、今までに先生という立場を利用して必要以上に踏み込んでくる教師は何人かいたが、彼女は違った。
日々バイトに明け暮れるおれの様子を察して、彼女は必要以上に干渉してこなかった。
ただ学校であったことや身の回りで起きたことを楽しそうに話をして、時々おれの体を心配する程度だった。
それがおれにとって居心地が良かった。
ずっとこのまま時間が止まればいいのに。
先生といる間、何度もそう願った。