僕らのチェリー
「おいキョウ。ぼおっと突っ立ってねえで早くやろうぜ。せっかくのカモが逃げちまうぞ」
彼女が帰った後はいつも現実が待っていた。
カラフルだった世界が白黒に変わる瞬間だ。
ブルルッとエンジンの音がかかる。
健二先輩が原付バイクに跨るとおれは急いでフードを被りその後ろに乗った。
大通りを出て信号を左に曲がり右側に狭い路地がある。
そこは人気が少なく外灯もないが、裏道として利用しているのか会社帰りのOLが歩いているのをよく見かけた。
「今夜のカモはOL」
健二先輩のこの一言で獲物を狙う場所はその狭い路地に決まった。
案の定、きょうはスーツを着たOLらしき女性が一人歩いていた。足取りが少しふらついているところからお酒が入っているようだ。
絶好のカモだった。
健二先輩がおれに目を向け顎をしゃくる。
行くぞ。
始まりの合図だ。
おれが頷くと、バイクは女性に向かって猛スピードで走り出した。