僕らのチェリー
「シケてんなあ。
たった三千円ぽっちじゃろくなもん買えやしねえ。
まあいいや。
これおまえにやる」
女物の財布から抜き取った現金を差し出され、おれは首を振った。
「おれはいいっすよ。
健二先輩が使ってください」
「遠慮しねえで生活費にでも使えよ。どうせ人の金なんだから」
「いやいいっす。今月は間に合ってますから」
正直、おれは人から盗った金を使いたくなかった。
これまで健二先輩に誘われて何十件かひったくりを繰り返したが、どんなに生活に困っていても一銭たりとも手を出したことはない。
普段から色々助けてもらっているのもあって健二先輩の誘いを断ることができないおれは、いわゆるお付き合いとして彼の手伝いをするだけにとどまっていた。
盗み取った現金に手を出してしまえば、断れない自分の不甲斐なさを認めるようでおれは頑として現金を受け取ることを拒んだ。
健二先輩はそれがどうやら気にくわなかったらしく、さきほどのOLから盗った鞄を溝川に向けて乱暴に投げ捨てた。
「あっそう。じゃこれでコンビニで適当なもん買ってこい。
酒も忘れるなよ」
「はい」
そばにあったコンビニエンストアに入って、商品をあさる。
外の駐車場で健二先輩は原付バイクに跨ったまま煙草を吸っていた。
微かに右足を揺らしている。
その癖は彼が苛ついていることを表していた。
おれは急いで酒とそのつまみになるようなものを適当に選びレジまで持っていった。
その時人が入る気配がして何気なく出入り口に目を向けた。