僕らのチェリー
「あら、橘君じゃない」
どくん、と鼓動が高鳴った。
長い栗髪を揺らして、彼女はおれの元に駆け寄った。
「どうしたの。きょうはバイトの日じゃなかった?」
「あっいや。早く終わったから…」
しどろもどろになりながら酒の入った籠を後ろに隠した。
おれが飲むわけじゃないが、教師と生徒という立場上面倒なことになることは避けたかった。
しかし彼女は薄々気付いたようで、時々おれの後ろに目をやっては頷いていた。
「外にいる男の子。あなたの友達?」
ウィンドウの外を指差して彼女がいった。
おれは小さく頷いた。
「どう見ても未成年なのにあんなところで煙草吸うなんて度胸のある子ね。
あの子にお酒を買うように頼まれたの?」
やはり彼女にはお見通しだったようだ。
額に冷や汗が流れた。
「あなたたち未成年でしょう。それ返してきなさい」
彼女の強い口調に圧倒されて、おれは観念したように酒を元の位置に戻した。
健二先輩には後で理由を話して酒は別の場所で買えばいい。
それにしても厄介なときに彼女と会ってしまったなとおれはため息を吐いた。