僕らのチェリー


「ねえ橘君は先生のことをどう思う?」


思わず飲んでいた水を吹き出しそうになった。

おれは慌てて振り返って食卓に座っていた彼女に目をやった。


「急になんだよ」

「ううんちょっと聞いてみたくなっただけ」


彼女は小さく笑って教科書を広げた。

その表情がどこか浮かなかったのは気のせいだろうか。

なにかあったのかと訊いても彼女は笑ってはぐらかすばかりでおれはもどかしい気持ちになった。


「ちょっと色々考えることがあってね。
こんなこと考えてる時点で私は教師失格なんだけどやっぱり考えちゃうんだ」

「何を考えるんだよ」


ふいに彼女が妖しく微笑んで、おれの鼓動は高鳴った。


「それは秘密」


それからすぐ後のことだった。

もしかしたら彼女は自分に気があるのかもしれないと考えたおれはとんだ勘違い野郎だった。

彼女にとっておれは生徒のひとりに過ぎない。

分かっていたのに勘違いも甚だしい。

あいつを見る彼女の瞳は明らかにおれといる時と違っていた。

教師という職業を忘れたただの女だった。
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