僕らのチェリー
その日はひどく寒い日でさっき別れたばかりにも関わらず、おれは彼女に無性に会いたくなり雪道を引き返した。
職員室に彼女の姿はなかった。
机の上に鞄はあることからまだ帰ってはなさそうだ。
おれは教室に向かった。
今思えばそこで諦めて帰ればよかった。
寒い日はどうして人恋しくなるのだろうか。冷たい風に背中を押されて、早く彼女に会いたかったおれは階段を一気に駆け上がった。
廊下に出ると教室の前でひとりの女生徒が立っていた。
その横顔は見たことのある顔だった。確か同じクラスで笠原という女だった。
笠原は教室の中をじっと見つめたまま微動だにしなかった。
一体何を見ているのだろうとおれは反対側の扉の窓から教室の中を覗き込んだ。
そこには目を疑う光景が待っていた。
彼女がヨネとキスを交わしていた。
「おれは、アンナ先生が好きです。すごく大好きです」
不思議なことに驚きはあまりなかった。
毎日彼女のことを話す幼なじみの顔を見れば誰でも薄々は気付くものだった。
ただこの時彼女の瞳がまっすぐヨネに向けられていて、おれは胸の中で悔しさと寂しさが渦巻きながら黒い染みへと広がっていくのを感じ取っていた。
笠原が涙を流していた。
その涙はおれの気持ちを反映しているかのようにゆっくりと頬をつたっていた。