僕らのチェリー
AM10:54
「キョウ本当にいいんだな。
あの女おまえんところの先公だろう」
AM10:55
「先公だろうがなんだろうが関係ないっすよ。
とにかく行きましょう。
健二先輩」
AM10:56
二人を乗せた原付バイクは一気に走り出して、横断歩道を走るその女に向かった。
目当てはその女の白いバッグ。
金が欲しいわけじゃなかった。
もう自分でも止めることのできない憎しみを誰かにぶつけたかった。
それがたまたま彼女だった。
フードを深く被って手を差し出そうとしたときだった。
女が突然、足を止めて振り返った。
やばい。
おれはとっさに俯いた。
しかしバイクは止まることなく一直線に向かっている。
急ブレーキが効かない。
何やってるんだ。
どけよ。
健二先輩の声は届かず、彼女は立ち止まったままおれをじっと見つめていた。
おれはフードを取って叫んだ。
「先生っ」
彼女の唇が動いた。
「橘君」
AM10:57
赤い箱が宙を舞った。
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