僕らのチェリー


「先生は高嶺の花そのものだよね」


夏が始まろうとする頃には奈美も加わって、先生と三人でいる放課はいつの間にかお喋り同好会の時間と化していた。

購買で買ってきたお菓子を食べながら、奈美が言った。


「男子が噂しているよ。アンナ先生は高嶺の花だって。
もし生徒の中でそっけない男子がいたら、絶対そいつ先生のことが好きだから。
先生もたいがい罪な女だよね」

「も、てなによ。も、て」


すかさず澪が突っ込みを入れると、奈美は不満げに口を尖らせた。

杏奈先生は隣でくすくすと小さく笑っている。


「でも高嶺の花か。先生は花でいうと桜を思い出させるなあ」


澪は窓から見える深緑の木々に、淡い桜色の花びらを思い浮かべる。


「澪、それ言えてる」

「でしょ」

「桜、って私が?」

「そう。柔らかくて優しくて、こう儚げな感じが先生とよく似てる」

「そうそう」と奈美。

「二人とも上手ねえ。
先生は桜が一番好きだからそう言ってもらえて嬉しいけど、あなたたち私を理想化してない?
儚げだなんて、きっと私の友達が聞いたら爆笑するわ」

「理想化なんかしてないよ。というより奈美は先生が理想の人だもん」

「あたしも。杏奈先生は女子の憧れの的だよ」


先生は目を大きく開いてそれから照れくさそうにはにかんだ。


「ありがとう。
でも、そうだな。桜を見て少しでも私を思い出してくれたら、それはそれで嬉しいかもしれないな。
二人とも卒業してもたまには桜を見て、私を思い出してね、なーんてね」







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