僕らのチェリー

校舎と体育館を結ぶ渡り廊下を歩いていると、冷たい風が吹いて肩まである髪がなびく。

澪は立ち止まり、そこから小さく見える校門を眺めた。


「桜、散っちゃったね」


と隣で奈美が呟いた。

その顔はどこか浮かなかった。


「来年になればまた咲くよ」


雨が音を奏でる中、一本の木が寂し気に立っている。

それはすでに春から夏への季節の変わり目を表していて、桜は完全に散っていた。


「あーあ、雨って憂鬱。澪もそう思わない?」


器用に巻いてある髪の毛を直しながら、奈美は言った。


「あたしは雨好きだよ」


雨音を聞くのが澪は好きだ。

心地が良くて、いつまでも聞いていたいぐらいだった。


「ふうん、変わってる。だって雨なんか降っても一介の女子高生にとっては何の得にもならないじゃない。湿気で髪は広がるし、べたべたするし、デートだってドタキャンされるし。嫌になる」

「ドタキャン?されたの?」

「うん。雨だから面倒臭いって彼氏からメールきた」

「うわ最悪じゃん、それ」

「そーう?」
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