僕らのチェリー
「まあ、理由は何でもいいけどよ」
と恭介が腰を上げる気配がした。
「やみくもに働いていたってアンナ先生が戻ってくるわけじゃないんだからな。無理すんなよ」
──ポキッ。鉛筆の芯が折れた。
振り向くと恭介は入り口から廊下に出ようとしていた。
澪はその背中を睨みつける。
「笠原」
その声にどきりとして振り向くと、いつの間にかヨネが隣に立っていた。
「試合、今どっちが勝ってる?」
「えっ、赤」
「本当だ。もう五点差とられてるし、後半で挽回できるかな」
点数ノートを見て嘆くヨネの顔が近い。
澪は思わず退いた。
「で、できるんじゃない。ヨネなら」
「笠原って赤だろ。そんなこと言っていいの?敵のおれを調子乗らせたら怖いよ」
「大丈夫。どっちが勝ってもあたしは気にしないから」
「それってどうでもいいってこと?そのどうでもいい試合に燃えてるおれって一体何?」
「あは、燃えてるんだ」
「何事も全力で楽しむことがおれのポリシーだからな。そうじゃなきゃ損してる気分じゃん」